2 - 7 - 2 カエレ式


 カエレはエトルリアのチェルヴェテリの古名であり、この地とその周辺からこの様式を持つ陶器が多数出土し、おそらくはここで制作されたと考えられている。しかしその数は少なく、いずれもヒュドリアである(Caeretan Hydria)[1]。その制作年代はかなり限られていて、紀元前540-530年頃である。特徴としては、陶土はオレンジから茶色の色彩に焼成され、黒のほかにも白や赤紫などの色彩が豊かに用いられていて、刻線の使用は最低限度に抑えられている。

 頚部には常に紋章のような文様が描かれ、肩と取っ手の付け根周辺と脚部には舌状文が見られ、胴部の下半部にはロータス・パルメット文、さらにその下に光線文が描かれる。胴部の主題はその多くが神話を題材にしたもので、人物は自由な姿勢と構成によって描かれ、滑稽味のある描写が特徴といえる。ここにはコリントス式の影響はほとんど見られず、逆に東方ギリシアの影響はかなり色濃く残っている。それぞれの陶器の描写や構成はかなり共通していて、一人の人物、あるいは一つの工房によって描かれたことが指摘されている。

 ルーヴル美術館所蔵のヒュドリア(図1,louvre)にはヘラクレスが冥界から連れてきたケルベロスをエウリュステウス王のもとにつれてきた場面が描かれているが、王は恐れて甕の中に隠れていて、カエレ式らしいユーモアが感じられる。同じような主題は後にアッティカ式にも受け入れられている。またケルベロスは三つの頭がそれぞれ別の色に塗り分けられていて、ほかの地域の陶器には見られない特徴である。またアテナイのキュクラデス博物館所蔵のヒュドリアには海の怪物を退治するペルセウス、あるいはヘラクレスが描かれているが、その描写はかなりイオニア的である。とくに怪物とともに描かれているイルカやタコ、アザラシなどはコリントス式ではまずあり得ないものであり、イオニア風の自由な描写である。



図1

[1] カエレ式陶器については、Hemelrijk, J. M., Caeretan Hydriai, Kerameus 5, (1984), Del Chiaro, M. A., "The Caeretan figured group", AJA 70, pp.31-36参照。