レトロゲームレビュー/バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海

BATEN KAITOS

終わらない翼と失われた海

 

 

機種

ニンテンドーゲームキューブ

発売元

ナムコ

開発

モノリスソフト、トライクレッシェンド

ジャンル

ロールプレイング

発売日

03年12月5日

価格

6,800円

ディレクター

初芝弘也

サウンド

桜庭統

シナリオ

加藤正人

キャラクターデザイン

日暮央

国内販売本数

20万本

プレイ時間

120時間以上

 

 

ひとり夜の底を行く“我ら”を 海よいつか救いたまえ

 

 

グラフィック

大陸毎に気候や環境が全く異なっており、それが見事に表現されているので、

景色を眺めながらしばし見惚れることも多い。ポリゴンで描かれた人々や動物

だけでなく背景も動く場面など、見ていて飽きない工夫が各所で見られる。

 9

サウンド

筋の通ったメロディーラインがとても印象的で、テーマが明確に伝わってくる。

そしてその重厚な曲達は見事に世界観を強調しながら、余韻を残していく。

暗い雰囲気の曲も非常に有効に使われているが、やりすぎなほど暗かった。

 9

システム

マグナス(カード)を使った戦闘は、ルールや属性のややこしさが多少あるが、

思考と手さばきを駆使するのが楽しく、多大に可能性を秘めたシステムだ。

しかし、うまく戦うためにマグナスのデッキを組み上げるのは正直面倒くさい。

 9

操作性

戦闘での操作は、すぐに慣れると思うが、デッキを組み上げるときの操作は、

慣れても面倒に変わりはない。それ以外が快適なだけに、余計気になった。

 8

プラス要素

ストーリーや世界観は味わい深く、体験して損のないすばらしいデキといえる。

マグナス集めやSPコンボなどは、やり込める且つ役に立つので申し分ない。

クリア後のおまけがないのと、会話でのボイスの音質が悪いのが残念だった。

 8

外観評価点

 

43

プレイ感想

自分は主人公に憑いた聖霊という立場で、常に行動を共にしていくわけだが、

その割には何かと腑に落ちない点が多い状態で物語は進んでいく。その謎は

一向に解けないどころか、旅が進むに連れてさらに深まるばかり。そして、その

長いトンネルをようやく抜けたかと思ったとき、さらにいくつもの衝撃的な事実が

待っていようとは、もはや全く予想できなかった。世界観を彩る風景や音楽は

どれもバラエティーに富んでおり、見る、聞く、考える、という面で飽きがこない

ようなメリハリが感じられる。キャラは一癖も二癖あって良くも悪くも印象的。

肝心の戦闘は、マグナス(カード)を使うという戸惑いはすぐに解消するだろう。

一回の攻撃時間が長いので戦闘はどうしても長くなりがちだが、マグナスに

よる戦闘はとてもスリリングなので、あまり気にはならない。気になる部分を

挙げれば、マグナスのデッキを整理するのが面倒なこと。ボイスの音質が悪く

声がこもって聞こえること。またクリア後に全くおまけ要素が全くなく、せっかく

苦労して集めたマグナスもそれっきりということだろうか。それでも、この物語を

体験し終えたとき、とても満足感で一杯になった。本当にすてきな物語だった。

 

内容評価点

 

46

総合評価点

 

89

コメント

 2002年5月8日、任天堂とナムコは任天堂ハード向けの開発および販売に

関して業務提携を行うことを発表した。それに伴い、スターフォックス最新作の

共同開発やテイルズシリーズの新作投入など、その内容も明らかにされていた

わけだが、その中にひときわ異彩を放つタイトルが紛れ込んでいたのである。

「新RPG(タイトル未定) 発売日:2003年12月」。あまりに謎だらけだった

今作に対し、多くの人が期待以上に不安を抱いたに違いない。しかし、予定通り

翌年の12月に発売された今作「バテン・カイトス」は、世界観やキャラクター、

そしてカードを使うとうゲーム性など、その全てが他とは異質の存在であった。

 

 今作はファンタジックな世界観と毒々しいキャラクターという、ナムコの作品に

しては珍しい雰囲気を持っている。しかし本当に驚くべきは、マグナスという

いわゆるカードを使った戦闘システムにあった。「カードゲームではない」、と

ディレクターの初芝氏が語るように、今作の戦闘には一般的なカードゲームの

ように順番にカードを出し合うというものではない。相手の攻撃に即座に反応し、

リアルタイムで防御のカードを選択していく。視覚的にわかり易いカードを使う

ことでリアルタイム性は驚くほど増し、スリリングな戦闘が完成したのである。

 

 ただ、今作も「バイオハザード」と同じように、GCの普及率やユーザー層など、

厳しい条件が多すぎて、ヒットの可能性などほとんどなかったというのが紛れも

ない事実である。今作もまた“隠れた良作”として後に嘆かれるような存在なの

だろうか。それなら公約を破ってでも、他ハードへ移植して欲しいと思えるのだ。

「光なき地に光を 救いなきものに救いを ひとり夜の底を行く我らを 海よいざ

ないたまえ」。これは今作の話の中で非常に重要な合言葉だ。しかし、これは

ゲーム内のことだけを表す言葉だったのだろうか。「ひとり夜の底を行く我ら」。

これは、敢えて厳しい環境にその身を投じた今作自体を、そしてそれを承知の

上で送り出したスタッフ達自身のことを表しているのではないか・・・・。

私にはそう思えて仕方がないのである。

 

 これは戯言なのかもしれない。私の知らないところでもっと別の、そしてもっと

多くの深刻な悲しみが起こっているということは、わかっている“つもり”である。

それでも我々は、自分の身近に起こった不幸にだけ過剰に反応し、それ以外の

不幸は“自分じゃなくてよかった”とむしろ安心してしまうような愚か者だ。

ならば、これからはせめてこう思って日々を暮らしていきたいと思う。

「救いなき今作にどうか救いを 救いなき全ての事にも、いつかきっと救いを」。

 

 

2005年9月13日