公開:平成18年3月21日

 ← 卵に群がる

 産卵直後の卵はもっと細いので、生まれてから少し時間のたった卵だろう。
 
 トウホクサンショウウオの卵は表面に独特のシワができるのだが、生まれたての卵はふわふわと柔らかすぎて、表面のシワもよくわからない。今にも崩れてしまいそうだったので、あわてて池に返す。
 だからこの時点では、「たぶんトウホクだろう」程度の認識。
 
 後日、日光自然博物館の方に確認したら、「場所的にトウホクサンショウウオでまちがいないだろう。」とのこと。

  さらに1ヵ月後、産卵地に行って卵のシワを確認した。トウホクサンショウウオにまちがいない。

 

             ↑ 水面近くのトウホクサンショウウオ

 昼間は黒っぽいトウホクサンショウウオだが、夜は体色が一様に薄くなっており、中には写真のようにブチ模様の個体もいた。
 サンショウウオやカエルなどの両生類は、場所や時間によって体色が変化するし、個体によって体色の変異も多い。特に外見の違いがわかりにくいサンショウウオは、そのエリアの生息種の情報を把握していないと、種の判別が難しい種類だ。

           ↑ 産卵のためにあつまるトウホクサンショウウオ

 ほんとはこの倍くらいの成体がもっと水面近くでごにょごにょしていた。ライトを当てると半分は水底などに隠れてしまう。それでも写真には6〜7匹くらい写っているはずだ。

              ↑ 成体と昨年生まれた幼体

 まん中の大きな成体の前方に、黒くて小さな幼体がいる。幼体の首の付け根にはまだエラが残っている。場所によっては生まれた年に成体になるが、ここでは翌年に陸に上がる個体が多いようだ。

撮影 : 栃木県矢板市・八方ヶ原周辺 (平成17年4月)

 ムササビを狙って八方ヶ原に行ったが、見事に大はずれ。ムササビをあきらめ、帰り際に杉林の中の小さな池をのぞくと、たくさんのサンショウウオがうごめいている。トウホクサンショウウオだ。日中はなにもいない池だったのに、夜はまったくの別世界だ。
 産卵のために集まっているようだった。ここより少し北にある塩原町の産卵地では、いつも3月中旬〜末が産卵期である。どうやら八方ヶ原のほうが高度が高いぶん、産卵が遅いようだ。隣町にもかかわらず1ヶ月も産卵がずれてしまうことに正直驚いた。
 サンショウウオ類はけっこうデリケートな生き物だから、自然環境の指標になる。サンショウウオがいれば、そこの自然環境はとりあえず良好ということだ。しかし、良好な自然環境がこれから先の長い年月も安定しているかどうかは別の話。生き物同様、自然環境もデリケートだ。

 もし、サンショウウオの産卵場所を見つけたら、できれば毎年、その産卵をそっと見守って欲しい。継続することで見えてくる何かがあるはずだ。

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 サンショウウオ目(有尾目)サンショウウオ科(日本固有種) 大きさ 9〜14cm 
 分布  本州 栃木以北 
 東北、北関東地方にすむ代表的なサンショウウオ。山林、湿地帯にすんでいる。基本的には水がたまっている側溝や池に卵を産む(止水性という)が、わずかに流れのあるところに産むことが多い。透明なひも状の卵で、縦じわがある。冬は冬眠する。産卵は3月から6月。
 ウォッチングのコツ・・・サンショウウオのウォッチングは意外と難しく、成体(おとなの個体)は林の湿った石や枯れ木をひっくり返したときに偶然見つける程度である。狙って探すならば早春。産卵地を探す。産卵地は山の中でちょろちょろと水が流れているような側溝や池。卵は3週間くらいは孵化(うか)しないので、成体よりははるかに見つけやすい。夏に見に行けば小さなサンショウウオが見られるし、翌年の早春に行けば成体が見られるかもしれない。

←周辺で冬眠していた幼体
 
 陸に上がるとエラが消え、肺と皮膚から呼吸になる。
 この個体は周辺で冬眠していた。大きな倒木をひっくり返したら出てきた。
 

トウホクサンショウウオ  



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撮影 : 栃木県塩原町(平成17年3月28日他) 

トウホクサンショウウオの成長の様子
 栃木県塩原町には、ここ10年近く観察を続けている産卵地がある。
 小さな沢沿いの道路の脇のU字溝である。すぐ上の崖から行く筋もの水が流れており、U字溝は1年を通し水が枯れることはない。
 10年間の観察、といっても、毎年トウホクサンショウウオの産卵が無事行われたか確認するといった程度のものである。今のところ、年によっての変化はほとんどない。生息数が安定している(産卵の時期は数週間程度でズレがあるが)。が、気は許せない。平成17年はいつもどおり産卵が行われていたが、周辺で工事が行われていた。

                    ↑ 卵

 こんな感じで卵は産みつけられる。沢では1箇所で1〜3個程度の卵を見ることが多いるが、条件のいい産卵場所ではいくつもの卵がかたっまていることがある。

                ↑ 卵の独特のシワ

 細かい縦ジワがわかるだろう。これがトウホクサンショウウオの特徴。他のサンショウウオにはないので、種の判別のポイントになる。
 きれいで不思議なシワで、自然の造詣に感嘆する。

←足が生えた幼生

 カエルよりも細長いオタマジャクシ。エラがついているので、カエルとは区別できる。このエラで水中でも呼吸できる。
 かわいい足が生えてきた。

 このサンショウウオは基本的には流れのない水辺に卵を産む(止水性という)。が、すぐ近くの沢にも卵を産んでいるので、多少の水流は平気なようだ。
 

←エラがほとんど消えた

 この個体はほとんどエラが消えており、もうじき陸に上がる。

 餌は他の小動物。山の中の水辺は餌の少ない環境だし、泳ぎは下手だし、きっといつもお腹をすかせている子がいるに違いない。

 

 そして完全な成体になったトウホクサンショウウオは、産卵期を除き陸上で生活するようになる。エラがなくなったら、もう水中には戻れない。

←何匹か捕獲!

 たくさんいたトウホクサンショウウオのうちの何匹かを捕獲し、撮影する。
 こんなに簡単に成体に会えるのは、1年のうち産卵のこの時期のみ。

 撮影後はすぐに逃がす。デリケートだから弱らすわけにはいけない。

↑ 産卵前のメス

↑ オス(もしくは産卵後のメス?)

 さて、サンショウウオの飼育はけっこう難しい。子供のころはエゾサンショウウオを見つけるとうれしくて、必ず家に持ち帰ったものだ。ところがまず、餌を食べない。今でこそペットショップで簡単に活き餌が手に入るが、餌付くまでも大変だろうし、餌を確保し続けることも大変だ。そして温度管理。基本的には20℃くらいがよいようで、25℃を超えると弱ってしまう。夏場はクーラー設備が必要だ。それなりの覚悟とお金がなければ飼育はあきらめたほうがいい。

 

↑ 産卵直前の成体(塩原産)

↑ 完全な成体