国境の島・対馬 ツシマヤマネコ探検記1
ツシマヤマネコ どこにいる?
2005年の年も押し迫ろうという12月、ツシマヤマネコに会いたくて冬の対馬へ飛んだ。
飛んだ、といっても、ぽんぽこの実家が福岡なので、帰省途中に福岡空港からちょっと?寄り道だ。乗り込んだ飛行機はプロペラ付きで、なんか小さくて狭くて不安もあったけど、快晴の旅は順調。40分ほどの航路はあっという間で、僕らはついに憧れの対馬に最初の一歩を記す。
〜 島の生き物情報については、対馬野生生物保護センターの木村さん、野鳥通信の通信使さんに大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。〜
←対馬野生生物保護センター
対馬野生生物保護センターは、ツシマヤマネコ等の動植物を保護するために1997年に環境庁が設置した施設だ。ヤマネコセンターの愛称で親しまれている。
保護センターでは、保護・繁殖を目的に飼育し、野生に帰す試みを行っている。そのうち、病気などで野生に帰すことができないツシマヤマネコを一般に公開している。
センターでは、木村さんが出迎えてくれた。想像通りの、とっても素敵な人だった。
木村さん直々の案内で、さっそく、公開しているツシマヤマネコに会った。
ガラス張りのゲージの中にはのんびりとヤマネコが日向ぼっこをしていた。大きさは家ネコと同じくらい。
「このガラスはマジックミラーになってて、ネコからはこちらが見えないようになってるんですよ。でも、大きな声で話したりすると、わかるのでお静かに・・・。」 思った以上に自然体のヤマネコをたっぷり観察。
公開されているヤマネコは、2000年12月に保護されたオスの成獣だそうだ。
撮影は厳禁。センターの剥製(はくせい)をごらんあれ。
ツシマヤマネコは地元の人以外には知られていなかった。かつては肉が美味しいと言うことで、狩猟の対象であったそうだ。分類学上は、イギリスのO・トーマスによって、1908年に発表された。
1960年代には300頭近く生息していたと思われるツシマヤマネコは、その後1980年代には100頭前後に減少、1990年代には推定70〜90頭になったと言われており、あっというまに生息数を減らしたのである。
1966年に動物写真家がツシマヤマネコの撮影に成功、アサヒカメラに掲載された。それまで絶滅したのではないかと思われていたくらい、消息のなかったツシマヤマネコ。撮影成功は研究者や地元の人に希望を与え、その後の保護や調査活動の大きなきっかけとなったそうだ。
←交通事故確認地点
交通事故で死んでしまうヤマネコが後を絶たない。左はセンターにあったヤマネコの交通事故の状況について書かれたパネル。毎年、5頭前後のヤマネコが車の犠牲になっているそうだ。
特に11月からの冬の期間の交通事故が多い。親から独立した仔ネコが増えることと、エサが激減する季節であることで、ヤマネコの活動範囲が広がり、結果として交通事故が増えるようだ。
狭い山道が続き、交通量が多い対馬の道を走っていると、野生生物の事故が多いだろうということは強く実感できる。
←自動撮影用カメラ
保護活動はまずはヤマネコの実態把握が大切。ヤマネコの生息数をつかむのみならず、ヤマネコの生活の様子を詳しく知ることで、保護対策が講じられる。
そして、その際に活躍するのが写真の自動撮影用のカメラだ。センサーで動くものに反応し、シャッターがおりる。
インターネットなどで見られるヤマネコ写真も、自動撮影したであろうモノが結構ある。そうして僕らのような島外者がツシマヤマネコのことを知ることができるのだ。
↑ 快適空路はこの飛行機で
↓ センターに展示しているツシマヤマネコの剥製
しかし・・・・・この日は、空振り・・テンやイタチも見つけられなかった。
ツシマヤマネコに会いたい僕らは、このあと3日間もの間、夜の島をさまよった。
そして、ついに、韓国のあかりが見える岬の近くで、息の止まる瞬間がやってきたのだ。
つづく・・・・
僕らは夜の7時過ぎ、野生生物保護センターとおなじ上県(かみあがた)町で、小さな港にある「みなとや旅館」に到着した。
正月直前のシーズンオフ、本当なら、客をとらない予定だったのを受けてもらったのだ。
旅館にはもちろん他に客はなく、御主人ひとりが出迎えてくれた。
「ゆっくりしてってくださいよ。うちのはみんな、福岡にいっとうけん、僕だけですから。」
え?おいていかれたの?悪いことをしたなと思ったが、御主人はニコニコと屈託がない。
「ツシマヤマネコ? いやー、鳥を見たいって言うお客さんは春にたくさん来ますけど、地元の人もめったに見れんですね。うちのじいさんの方がよく知っとうちゃけど・・・いまおらんですもんね。・・・・今の時期? 釣りのお客さんばっかですよ。」
・・・・・ツシマヤマネコを見に来る客なんかいないみたい・・・・。
なんて会話をしながら、ふと玄関ホールの壁を見ると、立派なツシマヤマネコのパネル写真が飾ってある。
「撮影した方は、うちのじいさんと友だちなんで・・・・。僕は一回だけ見ました。山ん中で・・・・。いや、ひと目でわかりましたよ。ヤマネコだって。」
(この撮影者は、ツシマヤマネコ保護の第一人者、山村辰美さんのことだった!)
このあと、島の新鮮な海産物を中心とした、おいしい夕食を食べたものの、とてもいてもたってもいられず、僕らは夜の探索へと繰り出した。
ツシマヤマネコ 食肉目ネコ科 大きさ 50cm〜58cm 分布 ユーラシア大陸 日本には冬鳥として飛来 対馬では留鳥 国の天然記念物。環境庁レッドリスト「絶滅危惧1A類」 |
ツシマヤマネコは、対馬固有のベンガルヤマネコ(写真参照)の亜種とされる。大きさは家ネコとあまり変わらず、額の縦じまがくっきりしていて、耳の裏が白い。体にはヒョウ紋がある。夜行性で、ネズミなどの小動物を捕らえて食べる。 生息数は80頭前後と言われているが、推定でしか把握できておらず、保護した個体の繁殖が急がれている。現在、福岡市立動物園が委託を受け、繁殖に成功しているが、野生に帰すためには生息環境の悪化が著しく、障害が大きい。2006年9月に井の頭自然文化園」(東京都)及び「よこはま動物園」(横浜市)でも飼育が開始された。 |
ウォッチングのコツ・・・野生の個体を見るのは難しいが、対馬野生生物保護センターや福岡市動物園では、病気のため、野生に帰すことも繁殖もできない個体を公開しているので、見ることができる。 |
新しく発見されたイリオモテヤマネコが脚光を浴び、国策として調査が行われていた一方で、ツシマヤマネコの保護や調査は立ち遅れていった歴史がある。イリオモテヤマネコのすむ西表島は国有地が多く、環境保護をしやすいのに対し、民有地が大半の対馬ではそれが難しいそうだ。ほぼ同じ頭数なのにイリオモテヤマネコが絶滅危惧1B類で、ツシマヤマネコが絶滅危惧1A類だという背景には、そんな事情があるらしい。
木村さんは、別れ際、野鳥の観察ポイントが示してある、手製の資料をくださった。
最後まで感激・・・ほんとにありがとうございました。
←島のあちこちにある看板
夜のドライブでも目立つ。
島の道路は、カーブが多く、けっこう見通しが悪い。
ゆっくり運転しないと、小動物に気がつかないだろう。